Nakashibetsu Municipal folk Museum

中標津町在住の西村穣さんの植物コラム。

道端の野菜〔番外編〕

ヤマベ=山女

エゾノサワアザミ4月になると気温の上昇とともに雪解けが進み、小河川(こがわ)の魚も餌を求めて活発に動き出す。気の早い釣師はズボズボと埋まる春の雪をものともせずヤマベ(山女)釣へ出かけるのである。この時期は餌が十分にないため痩せているので、感触を楽しむのが目的のような気がする。

本番は、やはり解禁後の7月である。山の奥深く分け入り釣るヤマベの小刻みに踊る感触は毎年のことながらたまらない。

釣りは誘われなければ一人で行く。二人で行くと相手のことがいろいろ気になり、あずましくない。かなり山奥に入るのだが、そんなところに一人で行ってクマにでも遭ったら大変だ、とよく言われるがクマに出会ったことは一度もない。当然、鈴や蚊取り線香などで存在を知らしめる努力は怠りなくしているし、父も祖父も昭和のはじめから同じようにヤマベ釣りをしているが、襲われたことは一度もない。ということなので、それを信じて一人で行くことにしている。

また不思議なことに、竿を握っていると怖いものはなくなるのである。林道にクマの糞が落ちている程度ではへこたれない。しかし、昨年、小河川を釣り進んでいくと、明らかに動物が踏み荒らした後があり、このときばかりはさすがに気味悪くなり引き返した。どこかから見られていたのかもしれない。

シマフクロウと出会ったこともある。崖の上の一本松から自分の領地ばかりと沢全体を見下ろす姿には威圧感があり、人間界から離れた場所にいる感じがした。

子供のころは、今ほど草地が川に接近しておらず河川の環境も最高に良かったので、毎日同じ川に行っても良く釣れ、友達で大きさや数を自慢していた。

さて、釣ったヤマベはすべて持ち帰り、内蔵を取って炭火で干物にする。一斗缶の横両面を切り取った専用の焼き缶があり、ウナギ串で尾の付け根を刺し並べる。何度か炭を足しながらじっくりと焼きあげるのだが、火が強すぎると頭の部分が焦げてしまうし、弱ければ生焼けになる。結構、熟練の技が必要なのである。

焼きあがった小さなヤマベは、油で軽く揚げて、甘辛のたれを絡めて食べる。大きなヤマベは甘露煮にし、尾頭付きとしてお正月のお膳に乗る。本州生まれの祖父母が、山の中で考えたささやかなご馳走だったのかもしれない。今では超贅沢品か。

その料理も物心ついたころから食べているので、既に50年近く経つ。祖父の頃からというから80年は経っているのだろう。ちいさな楽しみも歴史をつづる。


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