父母の教えと私

 1月7日、文化会館での成人式に参加させていただきました。自分自身の成人の頃から40年近くの時を経たせいか、若さに対する違和感を感じました。もちろん、良いとか悪いとかいうことではありません。そして、感じたのは、大人も親も、若い人たちの前に立ちはだかる壁でなければならないのに、果たして、そうなっているのだろうかということでした。子どもは、親を乗り越え、前世代と戦い、自分たち自身の社会を築いていくものではないでしょうか。そのためには、立ちはだかっている壁が、乗り越えるに値する、戦うのに値するものでなくてはなりません。子どもは親の鏡、若者は社会の鏡と言います。反省。
 昭和45年、高校を卒業し、大学受験に失敗し浪人生活を始めた四月初旬、母からしっかり生活しなさいという趣旨の手紙をもらいました。その中に五点の教訓が書かれていました。
一、学生運動に対するあなたなりの考えを持つ事は良いですが、学生運動には関係しないでください。
一、この世は、お互いに大なり小なり迷惑をかけあって生活をしているのですが、どうしたらその迷惑を少なく出来るかを考えましょう。それは、相手の立場に立って考える事だと思います。自分のいやな事は相手もいやなのです。(これは、お母さんの小さい時からの信念です)
一、加藤さんの皆さんも親切にしてくださるでしょうが、その親切になれて、それを期待してはいけません。期待しなければ、恨む事も憎む事もありません。(お母さんの経験より)
一、世の中は、あなたが考えている様な甘い物ではありません。(そちらへ行ってからのいく日かでも、少しはわかったと思います)
一、あなたは、来年大学に合格する為に予備校へ行くのだという事を忘れてはいけません。後で後悔するよりも、今は苦しくとも頑張ってください。
 母親にとって、私の生活や考えがいかに心配であったかが分かります。しかし、これを読んだ時の私は・・・。この後、六月の初旬には、父親から手紙をもらいました。

 『おまえの勉強も勿論心配だが、健康の方も心配です。自炊と言う事は・・・お父さんも経験があるが、栄養がバランスを失います。栄養失調はだんだん出て来るものです。注意して下さい。
おまえの今年の目標は大学受験なのだから、頑張ってください。釧路では、お母さんが頑張っております。
頑張ると言ふても、勉強の場合は20%位余裕を残してやる事。100%頑張るのはやめた方が良い。この意味わかるかな?野球でも、目の色をかへて勝たなけりやと考えてる時は暴投したり四球を出したりする様です。心に余裕があれば、自分の欠点も分かるし、自分のやってる事も気がつくものです。テストでも、80点で合格するものなら85点か90点取る積りで、100点を取るなんて欲を出さない事です。』

 さて、いかがですか。何というウエットな親子と思われたでしょうか。そんな父も二十数年前に亡くなり、母は元気に一人で旅行などしておりますが、数年前、札幌にいる私の姉のところで同居を始めました。


五月の日に

私はあなたから生まれた
血液も 遺伝子も あなたのものだ

夜半に降った雨も上がり
晴れ渡った青空と
北国の春のあたたかい風に送られ
あなたは 釧路を後にした

もどかしい程の
のんびりとした時の流れだけを
手提げにつめこんで 札幌へと向かった

他には 4トンのトラックに半分にも満たない
身の回りの荷物を積み込んで

「お世話になりました」
と言うか細い言葉に
「これで終りではないでしょう」
と答え

「何もお世話はしてあげていなかったのに」
と心でつぶやいた


私はあなたから生まれた
だから
身体はもちろんだが
心も
あなたからいただいた

44年間暮らした家と
あなたの笑顔と
私の涙を

あなたが去った後の
五月のあたたかい風が
そっと見送ってくれた


最後の最後までウエットになってしまったようです。
 
平成22年1月 教育長
 小 谷 木  透