農と食と命と教育
平成26年12月26日更新
札幌でホテルに宿泊し、レストランでの朝食の折でした。斜め横の席に、そろそろ食べ終わろうかという様子の5人の家族連れの客がいました。小学校一年生(その後の会話で知る)の男の子とその両親(たぶん、20代から30代初め頃の)、そして男の子にとっては祖父母の2人の合計5人でした。大きな声を出していたので、聞くともなく聞くことになってしまいました。
男の子は椅子にだらしなくかけていたらしく、そのことで母親から「きちんと座りなさい」と叱責を受けていましたが、なかなかきちんと座らないらしく、母親の叱り声も大きくなり、他の大人3人も男の子を庇っているのか母親に同調しているのか分からないのですが、声のトーンが上がったようでした。耳を澄ますと、話題は発展し担任の先生との懇談でのことらしく、母親は次のようなことを言っていました。
「成績のことなら分かるけど、素行について先生に言われるなんてどういうことなの。○○は幼稚園の時はとてもいい子だったのに……」「だいたい、ごめんなさいも言えないの」そして、他の大人からは、「お母さんに、ごめんなさいと言いなさい。おまえが悪いんだから」「ほら、きちんと座りなさい」そんな様子がしばらく続き、男の子は泣き出したようでした。そして、いよいよ男の子は謝り始めました。「ごめんなさい」「ごめんなさい」と泣きながら何度も言っていました。
「ほら、また泣くよ。泣けばいいというものじゃないでしょ」「『ごめんなさい』って、何がごめんなさいなの。説明してごらん」「どういうふうにごめんなさいか説明しなさい。何が悪かったの。ただ謝るだけなら警察はいらないでしょ」
私は、一声かけようかという思いとともに、最後のパンの一片を飲み込み、男の子の必死の「ごめんなさい」「ごめんなさい」の声を後ろに聞きながら、席を立ちました。
その後どのような場面に移り変わったのかは分かりません。子どもの躾に関することですから、いろいろあるのはよく分かります。しかし、大人が4人で小さい子を取り囲んでのひとこまとしては、どうだったのでしょうか。朝食が5人にとって美味しい食事になったとは思えませんが、果たして食事の場で大人が寄って集ってあのような叱責をすることが子どもの成長に繋がるのでしょうか。より良い成長を期待できるのでしょうか。
食は命と繋がっています。それは、取りも直さず、食は生活そのものだということです。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
話は変わります。11月も押しつまる中、文化会館において中標津農業高校の『平成26年度校内実績発表大会』が行われました。毎年拝見させていただいているのですが、今年は一段と感心感動いたしました。「何をそんなに」とおっしゃる方には、ぜひ一度足を運んでいただきたいと思います。
開会式の進行、生徒の発表態度や技術には例年感心するのですが、今年は発表の内容、それは取りも直さずプロジェクト活動そのものの素晴らしさですが、例年になく群を抜いていました。全体に強く感じられたのは「郷土・中標津町」への意識、さらに言うなら中標津町への郷土愛ではないでしょうか。中標津町の自然と環境、産業、農産物、人……、そして、自分がその中の点の一つであるという意識、それが誠実な取り組みに結びついていると感じられました。サブテーマにも言葉としてそれらが表現されていました。
『高校生が耕すふるさとへの想い』『中標津がいっぱい なかしべつミルクシチュー開発』『自然に負荷をかけない酪農を探る』『農で耕す心の畑、食で育む元気なからだ』
私が教育長として仕事を始めた平成21年頃、中標津農業高校を維持存続させるためには、「何も農業にこだわらなくてもいいのだ」「調理師の免許を取得できるようにすれば生徒が集まる」「福祉の分野はこれからの成長分野だから、そっちへ歩みだそう」というような議論がされていました。
しかし、24,000人の中標津町に6間口の道立中標津高校が設置されている中、さらに町立の農業高校を設置している意味とは何でしょうか。また、その高校が計根別という地区に設置されている意味は、と考えてしまいました。基幹産業である農業の振興や後継者育成が維持存続の目的であったはずです。後継者の入学が減ったとはいえ、農業が消えてなくなることはないはずです。もちろん、そんなことがあれば、それは日本という国が滅びるときでしょう。
また、調理師の資格を取るためや福祉の資格を取るための高校ならば、計根別という地区に設置されているよりは、市街地に設置されている方がいいでしょう。学校を運営する上でも、教育する上でも、そして学ぶ生徒にとっても都合がいいはずです。
平成27年4月、小中一貫教育校『計根別学園』が開校します。計根別学園は、小学校・中学校の9年間で一貫教育を行うのは当然ですが、さらに町立計根別幼稚園・町立中標津農業高校との連携を一段と強化することも視野に入れています。中標津農業高校が現在行っている『計根別食育学校』においても、さらに豊かな内容で発展していくはずです。農業を学ぶだけではなく、農業教育によって子どもが成長することは『実績発表大会』を観るだけで納得できるはずです。
農と食と命が結びついた素晴らしい教育が、計根別で実践されています。
平成26年12月 教育長
小 谷 木 透
札幌でホテルに宿泊し、レストランでの朝食の折でした。斜め横の席に、そろそろ食べ終わろうかという様子の5人の家族連れの客がいました。小学校一年生(その後の会話で知る)の男の子とその両親(たぶん、20代から30代初め頃の)、そして男の子にとっては祖父母の2人の合計5人でした。大きな声を出していたので、聞くともなく聞くことになってしまいました。
男の子は椅子にだらしなくかけていたらしく、そのことで母親から「きちんと座りなさい」と叱責を受けていましたが、なかなかきちんと座らないらしく、母親の叱り声も大きくなり、他の大人3人も男の子を庇っているのか母親に同調しているのか分からないのですが、声のトーンが上がったようでした。耳を澄ますと、話題は発展し担任の先生との懇談でのことらしく、母親は次のようなことを言っていました。
「成績のことなら分かるけど、素行について先生に言われるなんてどういうことなの。○○は幼稚園の時はとてもいい子だったのに……」「だいたい、ごめんなさいも言えないの」そして、他の大人からは、「お母さんに、ごめんなさいと言いなさい。おまえが悪いんだから」「ほら、きちんと座りなさい」そんな様子がしばらく続き、男の子は泣き出したようでした。そして、いよいよ男の子は謝り始めました。「ごめんなさい」「ごめんなさい」と泣きながら何度も言っていました。
「ほら、また泣くよ。泣けばいいというものじゃないでしょ」「『ごめんなさい』って、何がごめんなさいなの。説明してごらん」「どういうふうにごめんなさいか説明しなさい。何が悪かったの。ただ謝るだけなら警察はいらないでしょ」
私は、一声かけようかという思いとともに、最後のパンの一片を飲み込み、男の子の必死の「ごめんなさい」「ごめんなさい」の声を後ろに聞きながら、席を立ちました。
その後どのような場面に移り変わったのかは分かりません。子どもの躾に関することですから、いろいろあるのはよく分かります。しかし、大人が4人で小さい子を取り囲んでのひとこまとしては、どうだったのでしょうか。朝食が5人にとって美味しい食事になったとは思えませんが、果たして食事の場で大人が寄って集ってあのような叱責をすることが子どもの成長に繋がるのでしょうか。より良い成長を期待できるのでしょうか。
食は命と繋がっています。それは、取りも直さず、食は生活そのものだということです。
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話は変わります。11月も押しつまる中、文化会館において中標津農業高校の『平成26年度校内実績発表大会』が行われました。毎年拝見させていただいているのですが、今年は一段と感心感動いたしました。「何をそんなに」とおっしゃる方には、ぜひ一度足を運んでいただきたいと思います。
開会式の進行、生徒の発表態度や技術には例年感心するのですが、今年は発表の内容、それは取りも直さずプロジェクト活動そのものの素晴らしさですが、例年になく群を抜いていました。全体に強く感じられたのは「郷土・中標津町」への意識、さらに言うなら中標津町への郷土愛ではないでしょうか。中標津町の自然と環境、産業、農産物、人……、そして、自分がその中の点の一つであるという意識、それが誠実な取り組みに結びついていると感じられました。サブテーマにも言葉としてそれらが表現されていました。
『高校生が耕すふるさとへの想い』『中標津がいっぱい なかしべつミルクシチュー開発』『自然に負荷をかけない酪農を探る』『農で耕す心の畑、食で育む元気なからだ』
私が教育長として仕事を始めた平成21年頃、中標津農業高校を維持存続させるためには、「何も農業にこだわらなくてもいいのだ」「調理師の免許を取得できるようにすれば生徒が集まる」「福祉の分野はこれからの成長分野だから、そっちへ歩みだそう」というような議論がされていました。
しかし、24,000人の中標津町に6間口の道立中標津高校が設置されている中、さらに町立の農業高校を設置している意味とは何でしょうか。また、その高校が計根別という地区に設置されている意味は、と考えてしまいました。基幹産業である農業の振興や後継者育成が維持存続の目的であったはずです。後継者の入学が減ったとはいえ、農業が消えてなくなることはないはずです。もちろん、そんなことがあれば、それは日本という国が滅びるときでしょう。
また、調理師の資格を取るためや福祉の資格を取るための高校ならば、計根別という地区に設置されているよりは、市街地に設置されている方がいいでしょう。学校を運営する上でも、教育する上でも、そして学ぶ生徒にとっても都合がいいはずです。
平成27年4月、小中一貫教育校『計根別学園』が開校します。計根別学園は、小学校・中学校の9年間で一貫教育を行うのは当然ですが、さらに町立計根別幼稚園・町立中標津農業高校との連携を一段と強化することも視野に入れています。中標津農業高校が現在行っている『計根別食育学校』においても、さらに豊かな内容で発展していくはずです。農業を学ぶだけではなく、農業教育によって子どもが成長することは『実績発表大会』を観るだけで納得できるはずです。
農と食と命が結びついた素晴らしい教育が、計根別で実践されています。
平成26年12月 教育長
小 谷 木 透
このページの情報に関するお問い合わせ先
中標津町 電話番号:0153-73-3111FAX:0153-73-5333
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