文化の違い

平成27年6月17日更新

 私にとって、ベニ(紅鮭)のない食卓は考えられないと言ってもいいほど我が家の食事(私の弁当も)には、ベニ(紅鮭)は欠かせない食材となっています。根室市生まれ釧路市育ちの私の身体の90%以上は魚で出来上がっていると、私は信じています。そんな私が驚愕したのは6月11日に飛び込んできたニュースでした。
 一つは、今年の日ロ間の漁業交渉の結果、ロシア200カイリ内のサケ・マスの漁獲割当量が7割減で妥結したということでした。二つ目は、追い討ちをかけるようにロシア下院で、ロシア200カイリ内のサケ・マス流し網漁を2016年から禁止する法案が可決されたということでした。根室市を中心としたサケ・マスの漁業基地では、加工業も含めた漁業関係者の深刻さはもちろん、様々な業界や市全体の経済に及ぼす影響も計り知れません。
 そして、そして、私のベニは一体どうなるのでしょう・・・

 ベニ(紅鮭)など食べなければ食べないでいいではないか、という声も聞こえてきます。全くそのとおりで、サバ・イワシもたくさん獲れるのだし、美味しいし、何の心配もないではないかと言われますと、またまたそのとおりですと答えてしまうのですが、何とも心さびしくて・・・
 こんなことを考えていると、可愛いクジラの顔も浮かんできます。クジラは大きくて可愛い哺乳類ですが、食べても美味しいのです。肉などは滅多に食べられなかった私の幼少期、クジラはたいへんなご馳走で、食卓に上るととてもうれしかったものです。でも、資源保護、動物愛護の観点から食べるなと言われれば、それはそれで構わないと思います。同じように世界のマグロとエビを日本人は食べ尽くそうとしていると言われています。残念なことですが、握りずしからマグロとエビが消えても、私は何とか我慢しましょう。
 しかし、ベニが・・・
 
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 「文化」とは何か。「文明」が少し大きな範疇を示し物質的であるのに対して、「文化」は身近な地域、生活環境・生活習慣に因る精神的な営みを示すと言えるのではないでしょうか。「メソポタミア文明」と「黄河文明」が違うからといって、私たちの生活に大きな影響はないはずです。しかし、「文化」の違いは前段でお話したとおり私たちの生活(精神生活を含め)に少なくない関わりをもっていると考えられます。

 もう一つ話を進めます。
 今年4月1日、小中一貫教育に取り組む計根別学園が開校いたしました。構想から、校舎建設と小中一貫教育の内容、教育課程の作成に五年ほどの歳月を費やしました。もちろん、九年間をつなげた教育課程の作成に努め、四月開校を迎えられたのには計根別小学校・計根別中学校の校長先生をはじめ多くの先生方の並大抵ではない努力がありました。新しい校章・校歌をはじめ小中学校による授業時間の違い、評価の仕方の違い、児童会・生徒会の違い、運動会・体育祭、学芸会・文化祭、数え上げれば切がないくらいの小中学校での違いがあり議論は白熱し、結論の出ないまま月日がどんどんと過ぎていくという状況でした。
そんな中で、課題解決に行き詰ると、当事者である学校関係者、地域、教育委員会から出てきたのは「小学校・中学校の文化の違い」という言葉でした。
 学校には「学校文化」というものがあり、小学校には小学校の、中学校には中学校の文化が存在しているのは事実です。なぜなら子どもたちの成長の段階が違うからです。小学校1年生では担任の先生にまとわりつき先生の服を引っ張ることが頻繁にありますが、中学校3年生では、そのようなことは稀です。小学生は概ね先生の指導に従います。従いたくない時でも、感情で表現することが精一杯ですが、中学生は理屈で先生を屈服させようとします。中学生は大人への入り口に立っています。

 しかし、「小学校・中学校の文化の違い」という言葉に頼り、それが全てであると考えていては一歩の前進もありません。1年生には1年生の成長の過程があり、2年生には2年生の成長の過程があります。また、九年間を成長の段階によって4・3・2と分けた場合、4には4の、2には2の成長の過程があります。明治の学制から戦後の6・3・3・4制を絶対と考える理由はないと思います。私たちが、今依っている学校教育文化はたかだか150年ほどの歴史です。子どもの成長に合った学校教育を求めて試行錯誤し続けることこそが子どもたちのための学校教育と言えるのではないでしょうか。計根別学園は、そんな場面を少しずつ乗り越えながら四月のスタートを切り、歩み始めました。
 「文化の違い」は絶対的なものではないはずです。他者に自分の文化が受け入れられないとき、議論を尽くしながら一歩退くことも大切な文化と言えるのではないでしょうか。日本人は、聖徳太子の昔から「和」を大切に生活してきたことを思うべきです。

 それにしても、私のベニは一体どうなるのでしょう・・・
 
平成27年6月 教育長
小 谷 木  透