第36回 私は、……

 山之口獏という詩人をご存知でしょうか。本名を山口重三郎という沖縄出身の方です。
 私が獏さんの詩を初めて知ったのは、1970年代の初め頃です。
 フォークシンガーの高田渡さんがメロディーをつけて歌っていました。
『鮪に鰯』『結婚』『生活の柄』この三編は高田渡さんの歌で知りました。
 また、『ミミコの独立』という詩は私が教員になったとき、中学校の国語の教科書に載っていました。
『現金』という詩があります。
  誰かが
  女といふものは馬鹿であると言い振らしてゐたのである。
  そんな馬鹿なことはないのである
  ぼくは大反対である
  諸手を挙げて反対である
  居候なんかしてゐてもそればかりは大反対である
  だから
  女よ
  だから女よ
  こつそりこつちへ廻はつておいで
  ぼくの女房になつてはくれまいか。

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 今年夏の参議院議員選挙を前に、18歳選挙権が話題になっています。
 特に、高校三年生では多くの生徒が在学中に18歳を迎えます。
「主権者教育」という耳慣れない言葉も聞こえてきます。
 よく聞き慣れた「政治的中立性」という言葉も学校の先生方を悩ませているようです。

 「選挙」は、飽くまでも民主主義社会を築き維持するための手段であろうと思われます。社会を形作る政治に関わっていくため、「選挙」の仕組みについて学ぶことも大事ではありますが、もっと学び考えなければならないのは、私たちが暮らす民主主義社会の中身についてです。中身について考え判断する力をつけないで方法論ばかりを学ばせても、自らの生活や社会の向上には繋がっていかないのではないでしょうか。
 消費税は上げるべきなのか、上げるべきではないのか。それは私たちの生活に直結した課題です。財政再建、福祉予算の確保、徴税の逆進性、議論すべき論点はたくさんあります。憲法は改正すべきなのか、現在の憲法を維持すべきなのか。戦争に負けてアメリカに押し付けられた憲法、世界の平和維持に参加するための海外での自衛隊の活動、軍隊を持たず問題解決のために軍事力を使わないという九条を中心とした平和憲法の維持、論点はたくさんあります。
 18歳選挙権で、高校生が学ぶべき課題は社会の中に政治の中に無限にあります。それらに対する自分の考えを持ち判断するための力を育ててあげることが教育の場における使命ではないでしょうか。
 欧米の高校生が多くの政治的課題を議論し、さまざまな社会的活動に参加していることを思うと、日本の高校生、子ども全体の成熟度の遅れはあまりにも大きいのではないでしょうか。個人も教育も社会も、子どもたちに刺激を与えることを、そのことによる個人の教育の社会の躓きをあまりにも危惧しすぎなのではないでしょうか。
 躓きの中から成長が始まることを忘れてしまったかのようです。

 
平成28年2月   教育長   小  谷  木   透