春一番の山菜といったら、まだ雪のとけきらぬ湧き水に、既にたくさん生えそろっている。何といっても「たかな」でしょ。
日本名で「オランダガラシ」といい、フランス料理などにチョット生意気な顔をしてそえられている時は「クレソン」ともいう。ちなみに「たかな」「タイワンゼリ」とは別名だが、オランダ、タイワンなどの名前からわかるように明治時代の始めに、洋食の付け合わせとして移入されたものが野生化したものである。水が合うのか当地には山ほどある。
通常、山菜といったら山奥のそのまた奥に秘密の場所があり、家族にも教えないといった変なイメージがあるが、この山菜はキレイな水が湧いている場所にはどこにでもあり、逆に山奥にはないので比較的簡単に発見し採ることができる。
3本 100円で売っている人工栽培のものは柔らかくて生で食べてもいいのだが、野性のものは固くてアクが強いので、この地方では多くがおひたしで食べているようである。最近、しゃぶしゃぶと一緒にしてクレソンなべと称していたのが発見であった。
私もおひたしファンだが、たかなを食べる時は必ずといっていいほど牛乳トーフを添えている。白く少しクリーム色がかった柔らか仕上げの牛乳トーフのそばにみずみずしいたかなをそえ、カツオブシがクルクルと踊っているうちに醤油をかけて、お銚子をかたむける。これが最高。他人の食卓を覗いたことはないが、この食べ方は、他にもきっとファンがいると確信している。
牛乳トーフの話しになるが、作る時は分娩時の蛋白分の高い牛乳を使うのではなく、通常時の牛乳を使った方が量は少ないけれど、柔らかくて歯触りの良いものができる。また、凝固剤(お酢)を使うタイミングも、牛乳を沸騰させるのではなく、とろ火で表面に膜ができたら火を止め、60°Cぐらいまで温度を下げてからの方が、きめ細やかになる。
たかなは道東ならではの季節料理だと思うが、余りにも一般的すぎるのか、食堂や旅館などではお目にかかったことはない。
私はさらに、たかなと牛乳トーフに前年の夏に釣り上げたカラフト鱒の自家製缶詰をそえて食べている。この「中標津三色」は私の発見した肴の中でも群を抜いている。
遊びで食卓を豊かにするのが道東の楽しみ方の一つである。