Nakashibetsu Municipal folk Museum

中標津町在住の西村穣さんの植物コラム。

道端の野菜

ふのり

毎年、ゴールデンウィークのころ、潮位を確認し大潮の日の干潮を目指して羅臼に向かう。忠類川を越し初春の穏やかなオホーツク海を右手に見て、薫別の坂を上ると知床の山々が見えてくる。樹木の色もなく頂はまだ真っ白だが、知床横断道路の除雪作業が終わり観光シーズンの幕開けなので道路は混雑しているはずだ。下界は穏やかでも峠の頂上付近は地吹雪模様のこともあり、本州の観光客にとってはそれも楽しみだろう。
が、今日の目的は峠ではない。

本町からヒカリゴケのあるマッカウス洞窟を過ぎ、いくつかトンネルを抜けると知円別漁港で、そろそろ春漁の準備をするころだ。
このあたりから道端にやせこけたエゾシカが目立つ。木々の皮が食べられた姿は痛々しいが、やっと冬を越し生き長らえた体に命を吹き込むかのように少しだけ伸びた草を必死に食べている姿もなかなか感動的である。

やがてセセキ温泉、相泊に到着し更に10分ほど歩くと海岸に岩場が現れる。
波で洗われかなり広く平らになった岩盤にごつごつとした岩があり一面に茶色の植物が付着している。
この時期の旬な海草、フノリである。種類としては何種類かあるようだが、日本全国津々浦々の海岸に存在するらしい。布糊とも書き、いわゆる洗濯糊としても利用され、今でも力士の下がりや筆先の凝固のために使われているとか。また、手工品の材料としても重宝されているようだ。

その、岩についているフノリを採るのだが、羅臼の友人いわく、アレは「むしる」もの。とのこと。確かに付着している短い海草を採取する作業はそういえないこともない。そういう言い方のほうがぴったりしているのかもしれない。少しおかしい。
採取時期としてはすでに遅くもっと早いほうが質も良いらしいのだが、多少味は落ちても暖かい海岸にのんびりといるのが性に合っている。趣味の世界はこの程度でちょうど良いのだ。

大勢ご存知の場所なので、出遅れると先客にひと回りされ、短いのばかりだったこともある。
スプーンだと沢山採れるが、岩についている砂も一緒になるので、指でつまんで優しくむしる(?)のが良い。

フノリは味噌汁の具によい。健康食品としてもなかなか優れているらしいが、山ほど食べるものでもない。海明け直前の磯の香りを楽しむのがわくわくする。
煮すぎるとどろどろになり文字通り糊状態になる。


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