毎年暑い夏(今年は記録的な低温と長雨の異常気象でしたが)が過ぎて秋の気配が感じられる頃になると、春にやってきてこの地方で繁殖した夏鳥たちが南の越冬地へ向かって次々に移動を開始します。これを「秋の渡り」といいます。
この地方の代表的な夏鳥であるエゾムシクイ、センダイムシクイは中国南部や東南アジアへ、ウグイスは本州から中国南部へ、アオジやクロジは本州から中国南部へ、アカハラなどのツグミの仲間は中国南部から東南アジアへ、キビタキ、オオルリなどのヒタキの仲間やカッコウ、ツツドリ等も東南アジアへ、キジバトは中国南部や東南アジアへ、そしてオオジシギは一番遠く赤道をこえてはるかオーストラリアまで渡って行きます。
秋の渡りの時期は種によって違っていて、早いものでは8月の下旬から渡りはじめ、遅いものでは10月の下旬になるものもあります(ちなみにアオジの渡りのピークは毎年10月10日頃です)。これらの夏鳥たちはそれぞれの地で冬を過ごして、来年の春になるとまた生まれ故郷であるこの地方に帰ってくるのです。
こうして渡って行った夏鳥と入れ替わりに、シベリア地方やカムチャツカ半島、それより北の北極圏、あるいは高山で夏の繁殖をすませた鳥たちが、寒さに追われるように冬を過ごすためにやってきます。
その代表格がガン、カモ、ハクチョウの仲間です。この仲間には多くの種がありますが、ガン類の中ではヒシクイ(オオヒシクイ)が本州へ渡る途中に刈り取りの終わった牧草畑に数十羽の群れで降り、残った草を食べる姿を見ることができます。
カモ類の大半は本州方面へ渡っていきますが、町内の凍らない川や沼に残るものがいます。
ハクチョウ類でこの地方にやって来るのは、この仲間の中では一番大きいオオハクチョウです。野付湾や風蓮湖が代表的な越冬地ですが、これも町内の凍らない川や沼で越冬するものがいます。
小鳥たちの仲間では、年によって来たり来なかったり、多い少ないの変動はありますが、キレンジャク、ヒレンジャクが大群でやって来て街路樹のナナカマドの実を食べる姿を見ることができますし、ベニヒワやアトリも群れでやって来ます。ハギマシコやギンザンマシコが市街地にやって来る年もあります。
羅臼町から根室市へかけての海岸地方に多くやってくるオジロワシとオオワシも、少数ですが標津川や武佐川の流域で見ることもできます。
夏の間野付半島や風蓮湖等の湿原で過ごしたタンチョウは、秋になると鶴居村や阿寒町の給餌場へ移動しますが、近年市街地に近い温泉の沼で越冬するものがいます。
このように野鳥は種によって様々な移動をしながら、環境にあわせて生活していますので、季節や場所によっていろいろな種類を観察することができます。
(日本鳥類標識協会会員 阿部 嗣)